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神戸地方裁判所 昭和30年(ワ)669号 判決 1960年10月05日

判  決

神戸市兵庫区東山町一丁目一四四番地

原告

山田寛治

右訴訟代理人弁護士

瓜谷篤治

右訴訟復代理人弁護士

山平一彦

同市生田区元町通七丁目一五番地

被告

中山景家

右訴訟代理人弁護士

下山昊

右当事者間の昭和三〇年(ワ)第六六九号所有権確認等請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(一)、原告は、「被告は原告に対し、別紙目録記載の各不動産が原告の所有であることを確認し、かつ右各物件について神戸地方法務局兵庫出張所昭和三〇年七月一九日受付第一一、六三六号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

(二)、被告は主文同旨の判決を求めた。

第二、主張

(一)、原告

(請求原因)

一、別紙目録記載の各不動産(以下本件不動産と略称する。)は原告の所有であるところ、原告不知の間に右不動産につき被告を権利者とする前記所有権移転登記がなされている。

二、よつて右所有権の確認と、これに基き右所有権移転登記の抹消登記手続とを求めるため本訴に及ぶものである。

(被告の主張に対する陳述)

一、原告が、昭和三〇年三月四日被告の主宰する神戸協和貯蓄会の日掛貯金に四〇口分加入したこと、同日掛貯金が、一口につき毎日(ただし、一月を三〇日とする。)三〇円宛掛込み、その間抽せんにより加入者に一定の金額を給付し、給付後は一口につき毎日三五円宛掛戻すとの約定であつて、右掛込み、掛戻しの期間が通じて一年であること、原告が右加入後八日間四〇口分の掛金をなしたうえ、同月一二日右約定にしたがい前記四〇口分について給付を受けたことは認める。しかしながら、右給付金の額は四〇口分の給付金三四〇、〇〇〇円より手数料八、〇〇〇円、登記手数料五、〇〇〇円を控除した金三二七、〇〇〇円であつて、被告主張のように四九二、八〇〇円ではない。

しかして、その際、右給付金の掛戻債務を担保するため、原告所有の本件不動産について抵当権を設定する旨の契約が原被告間に締結されたことはあるけれども、被告主張のような代物弁済の予約が締結された事実はない。

二、かりに右代物弁済の予約が締結された事実があつたとしても、本件無尽契約は次の理由によつて無効であるから、これに基く給付金掛戻債権を被担保債権とする本件代物弁済の予約もまた当然に無効というべきである。すなわち、

(一)、(相互銀行法違反)

相互銀行法第四条によると、大蔵大臣の免許を受けた相互銀行以外の者は、一定の期間を定め、その中途又は満了のときにおいて一定の金額の給付をすることを約して行う当該期間内における掛金の受入の業務を営んではならないものとされているところ、大蔵大臣の免許を受けた相互銀行以外の者である被告の主宰する前記神戸協和貯蓄会においては、(1) その会則に特定の会員によつて組織せられる相互協同組織である旨を謳いながら、同貯蓄会と会員との間の権利義務関係についてのみ規定を置くにすぎず、会員相互間の権利義務関係、会の管理関係についてはなんらの規定もしておらず、(2) またその会員資格についても、神戸市内に居住する商工業者、サラリーマンならば何人も会員となりうるものとされており、(3) さらには、右会則において、一二口をもつて一組とする旨、会員が一月以上掛金を遅滞なく支払つたときは給付を受ける資格を取得する旨をそれぞれ規定しながら、右の規定はいずれも遵守されておらないのであつて、右のごときは相互銀行とその加入者との関係に酷似するものというべきである。のみならず、被告が前記のような無尽契約によつて利益を得ることは明らかであるが(例えば原告加入分についてみれば、原告が加入後八日間に掛込んだ掛金が九、六〇〇円、給付を受けた後に掛戻すべき掛戻金の総額が四九二、八〇〇円であるのに対し、給付金の額は三四〇、〇〇〇円であるから、その差額一五二、四〇〇円が被告の利益となる。しかも被告は右給付の際に貯蓄会の経営費と称して一口分金二〇〇円を徴収しているのであるから利益はこれよりさらに大となる筈である。)、右利益についてはこれを花くじ等の方法で全員に分配する旨の定めが全く存しないのであり、かつ被告はかような行為を反覆継続して行つているのである。

してみると、被告としては、営利の目的をもつて相互銀行における同様の方法で相互銀行法第二条第一項第一号所定の行為を反覆継続しているものであり、したがつて同法第四条違反の行為をするものであつて、本件契約もその一環をなすものであることは明らかである。

しかして、かような相互銀行法第四条違反の行為は、単に同法第二三条によつて刑罰を加えらるべき行為であるに止らず、私法上の契約としても無効であるといわねばならない。けだし、そのような契約を無効としなければ相互銀行法の立法目的である預金者及び無尽加入者の保護は到底期し難いからである。

(二)、(出資の受入、預り金及び金利等の取締り等に関する法律違反)

出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第二条第二項は、「業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。」旨規定し、同条第二項によると、右「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入で、預金、貯金又は定期積金の受入及び借入金その他何らの名義をもつてするを問わず、これらと同様の経済的性質を有するものをいうものとされているところ、被告の主宰する前記神戸協和貯蓄会が、不特定かつ多数の加入者から掛金名義で右「預り金」に該当する金銭の受入を反覆継続していたことは前記のとおりであるから、同貯蓄会の行為は右第二条第一項違反の行為というべきである。のみならず被告は、業として金銭の貸付をなすものでありながら、その業を開始したときにその旨を大蔵大臣に届出なかつたものであるから、同法第七条第一項にも違反している。

しかして右の行為が同法第一一条第一二条によつて刑罰を加えらるべき行為であることは明らかであるが、その一環としてなされた本件無尽契約もまた前記第二項の(一)に記載のとおりの理由で私法上の契約としても無効のものといわねばならない。

(三)、(利息制限法違反)

前記のとおり、原告は昭和三〇年三月一二日被告から給付金名義で金三四〇、〇〇〇円の貸付を受けたが、その際、経費として八、〇〇〇円(二〇〇円宛四〇口分)、費用及び登記手数料として、五、〇〇〇円を天引きされ、現実に交付を受けたのは三二七、〇〇〇円である。しかも原告としては、同年三月四日から八日間掛金として一日一、二〇〇円(四〇口分)計九、六〇〇円を既に掛込んでいたから、結局、真実貸付を受けたのは三一七、四〇〇円であるにすぎない。これに対し原告は、三五二日間に亘つて一日一、四〇〇円宛合計四九二、八〇〇円を掛戻すべきこととなつたのであるから、その差額一七五、四〇〇円は実質上利息に相当するものといわねばならず、その利率は、右四九二、八〇〇円を全額一年後に支払うものとしても、年五割六分を超えるものとなるのである(しかも、右掛戻は日々これをなすべきものとされているうえに、一年間ではなく三五二日間に支払を完了すべきこととされている点を考慮すると、右の利率はさらに高率のものとなる)。

しかして、右掛戻は、利息部分と元本部分とが不可分の一体となつた金一、四〇〇円宛を毎日支払うことによつてこれをなすべきものとされているのであるから、結局本件無尽契約は全体として利息制限法に違反する無効の契約といわざるを得ない。

三、さらに、かりに被告主張のような代物弁済の予約が締結されたものとしても、右の予約は、原告が日掛掛戻金の弁済を五回以上怠つたときは、残債務の弁済に代えて本件不動産の所有権を代物弁済として被告に移転することをもつてその内容とするものであり、したがつて、原告において右掛戻金の大部分の弁済を終り、極めて少額の残債務を残すにすぎない時期に至つてもなおかつ原告が五回以上の掛戻金の弁済を怠れば右少額の残債務の弁済に代えて時価合計六〇〇、〇〇〇円を下らぬ本件不動産の所有権を被告に移転することができることを約するものであるが、被告は、原告の窮迫に乗じてかように原告に不利益な予約を締結させたものであるから、右予約は公序良俗に反して無効というべきである。

(二)被告

(答弁及び抗弁)

一、本件不動産が原告の所有であつたこと、右不動産につき原告主張のような所有権移転登記があることはいずれも認める。

二、しかして原告は、昭和三三年三月四日被告の主宰する神戸協和貯蓄会の日掛貯金に加入したが、右日掛貯金は、一口につき毎日(ただし、一月を三〇日とする。)。三〇円宛掛込み、その間抽せんにより加入者に一定金額の給付をし、給付後は一口につき毎日三五円宛を掛戻すとの約定であつて、右掛込み、掛戻しの期間は通じて一年であつた。しかるところ原告は、右加入後八日間四〇口分の掛金をなしたうえ、同月一二日右約定にしたがい、同日より昭和三一年三月三日までの間三五二回に亘つて毎日(ただし、一ケ月は三〇日とする)一、四〇〇円宛を日掛弁済によつて掛戻すこととして右四〇口分について金四九二、八〇〇円の給付を受けたが、その際給付金掛戻債務を担保するため、原告が右日掛弁済を怠つたときは、残債務の弁済に代えて本件不動産の所有権を被告に移転する旨の代物弁済の予約が原被告間に成立した。しかるに原告は、昭和三〇年六月七日までの八六回合計一二〇、四〇〇円の掛戻しをしたのみで以後なんらの弁済もしない。そこで被告は原告に対し、同年六月二三日口頭で右予約を完結する旨の意思表示をし、右意思表示は直ちに原告に到達してここに被告は本件不動産の所有権を取得するに至つたものである。

三、さらに原告は、本件無尽契約は無効であるから同契約上の債権を担保すべき右代弁済の予約もなんらの効力も有しないと主張するけれども、かような主張が理由なきものであることは明らかである。すなわち、

(一)、被告の主宰する神戸協和貯蓄会は、神戸市生田区元町高架通商業協同組合の組合員その他の希望者の納税のための準備金の積立て及び勤険貯蓄の奨励を目的とする会員相互組織であつて、営利の目的を有するものではないから、被告の行為をもつて相互銀行法第四条に違反することができないばかりでなく、かりにそれが同法に違反するとしても、右法条の立法趣旨とするところは、相互銀行業務を行う者に対する行政上の監督の適正を期し、もつて預金者、無尽加入者が不測の損失を被ることを予防しようとする点にあるのだから、右の行為に対しては刑罰を科するだけで十分であつて、その私法上の効力をも奪う必要は毛頭ないのみならず、これを無効とするときは取引の安全は極度に阻されることとなであろう。

(二)、次に、被告の行為が出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第二条第一項ならびに同法第七条第一項に違反するとの原告の主張は争う。かりにこれらに違反するとしても、前記第三項の(一)に記載のとおりの理由で、本件無尽契約が私法上の契約としても無効であるということはできない。

(三)、また原告は、本件貸付給付金の利率は年五割六分を超え利息制限法に違反するというけれども、右利率はわずか年一割九分七厘であるにすぎないばかりか、頼母子講における落札給付後の掛戻金についてはそもそも利息制限法の適用はないのであるから、原告の右の主張は全く理由がない。

なお、被告が原告の窮迫に乗じて、原告に対して極めて不利益な内容を有する本件代物弁済の予約を締結させたとの原告の主張は否認する。

第三、証拠(省略)

理由

一、本件不動産がもと原告の所有であつたこと、右不動産につき原告主張のような所有権移転登記がなされていることはいずれも当時者間に争いがない。

二、しかして、原告が、昭和三〇年三月四日被告の主宰する神戸協和貯蓄会の日掛貯金に四〇口分加入したこと、右日掛貯金が、一口につき毎日(ただし、一ケ月は三〇日とする。)三〇円宛掛込み、その間抽すんにより加入者に一定金額を給付をし、給付後は一口につき毎日三五円宛掛戻すとの約定であつて、右掛込み、掛戻しの期間は通じて一年であつたこと、原告が右加入後八日間四〇口分の掛金をなしたうえ、同月一二日右約定にしたがい前記四〇口分について給付を受けたことは当時者間に争いがなく、(証拠省略)ならびに右争いのない事実を総合すると、右給付金の額は、金三四〇、〇〇〇円であつたが、原告が現実に交付を受けたのはこれより前記協和会の維持費として四〇口分計八、〇〇〇円及び登記手続等に要する費用を控除した金員であつたこと、右給付後に原告の掛戻すべき掛戻金の総額が四九二、八〇〇円であつたことがそれぞれ認められる。被告は、右給付の際にその掛戻債権を担保するため、原告が右日掛弁済を怠つたときは、残債務の弁済に代えて本件不動産の所有権を被告に移転する旨の代物弁済の予約が原被告間に成立した旨主張し、原告はこれを争うので先ずこの点について検討するに、(証拠省略)総合すると、右給付の際に、原告と被告との間に被告主張のような代物弁済の予約が締結された事実を認めることができ、原告本人尋問の結果中右の認定に反する部分は直ちに採用し難い。

三、次に、原告は、本件無尽契約は相互銀行法、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律、利息制限法に違反する無効の契約であるから、これに基く掛戻金債権を担保すべき右代物弁済の予約のまた無効であると主張するので、この点について判断する。

(一)、まず相互銀行法違反の主張について考えるに、相互銀行法第四条にいわゆる「同法第二条第一項第一号に規定する業務を営む」とは、反覆継続の意思をもつて同条項所定の掛金の受入を行うことを指称するものと解すべきところ(最高裁判所昭和三一年(あ)第三六七〇号、同三五年七月二六日第三小法廷決定参照)の原被告間の本件無尽契約の内容は前記認定のとおりのものであり、しかも(証拠省略)ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、本件神戸協和貯蓄会においては、神戸市内に居住する者であれば何人でもこれに加入することができるものとされていること、同貯蓄会の加入者相互の間にはなんらの協同組織的関係も存しないこと、のみならず被告は右貯蓄会を主宰して昭和二八年頃から多数の加入者との間に本件契約締結と同様の契約を締結してその掛金の受入を継続して来たものでありながら、同会では右業務より生ずる残余金の処分方法に関してなんらの定めもされておらず、したがつて右残余金はすべて利益として原告に帰属することとなるのが建前であることをそれぞれ認めることができるのであつて、これらの事実からすると、被告は反覆継続の意思をもつて相互銀行法第二条第一項第一号所定の業務を行つていたものであると認定するのが相当というべきである。(なお、前記乙第二、三号証によると、本件協和貯蓄会の会則に同会が納税の備積立を目的としている旨の記載があることは明らかであるけれども、かような事実が右のごとき認定をするについてなんらの妨げとなるものでもないことはいうまでもない。)しかして、被告が大蔵大臣の免許を受けた相互銀行以外の者であることは被告の明らかに争わないところであるから、被告の業務は相互銀行法第四条違反の行為であり、かつ本件無尽契約はその一環をなすものであつて、したがつてこれが同法第二三条に基く処罰の対象たる行為であることは明らかであるといわざるを得ないのである。しかしながら、その故をもつて直ちに本件契約が私法上も無効な契約であるということはできないのであつて、その私法上の効力についてはなお別個の観点よりこれを判断すべきものというべきところ、前記相互銀行法第四条の趣旨とするところは、相互銀行業務を行う者に対する行政上の監督の適正を期するとともに、これによつて信用の維持と加入者の保護をはかろうとする点にあるのであつて、これに違反する行為の私法上の効力をも剥奪しようとの趣旨に出たものではないと解するのが相当であるから、本件無尽契約は私法上の契約としては有効なものというべきであり、したがつて原告の前記主張は結局理由がないといわねばならない。

(二)、次に本件無尽契約が、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第二条第一項同第七条第一項に違反するかどうかについて考えるに、右第二条にいわゆる「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入で、預金、貯金又は定期積金の受入及び、借入金その他何らの名義をもつてするを問わず、これらと同様の経済的性質を有するものをいうのであつて、右預金及び貯金はいずれもその元本の返済の約束を内容とし、かつ定期積金は一定期限を定めての一定金額の給付の約束を内容とするものであるところ、本件無尽契約は前記のとおりの内容のものであつて、相互銀行法第二条第一項第一号所定の「一定の期間を定め、その中途又は満了のときにおいて一定の金額の給付をすることを約して行う当該期間内における掛金の受入」に該当するものであり、かつかような意味での掛金の受入は、その元本の返済を約するものでない点において前記預金及び貯金と、またその給付の時期が当初より確定しておらない点において定期積金とそれぞれその経済的性質を異にするものであるから、結局右の掛金の受入をもつて前記法条にいわゆる「預り金」に当るものとすることはできず、したがつて本件無尽契約が同法第二条第一項に違反するということもできない。

なお、原告は同法第七条第一項違反を主張しているけれども、右条項は貸金業を行う者の大蔵大臣に対する届出義務を規定したものであるから、本件無尽契約そのものが直接に右条項に違反する行為であるというがごときことはあり得ないばかりでなく、被告が業として金銭の貸付又は金銭の貸借の媒介を行う者であると認めることもできないから右の主張は採用し難い。

(三)、さらに本件無尽契約が利息制限法に違反するかどうかについて検討するに、右利息制限法の規定の適用があるのは、金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約もしくは賠償額の予定についてであることは同法の規定自体に徴して明らかというべきであり、かつ本件契約においては、前記のとおり原告は金三四〇、〇〇〇円の給付に対し合計金四九二、八〇〇円の掛戻をなすべきものとされているのであつて、右はあたかも金三四〇、〇〇〇円の貸付に対し右の差額金一五二、八〇〇円の利息の支払を約する消費貸借契約と同一であるかのような観を呈しているのである。しかしながら、本件無尽契約は前記のような内容を有する一種の無名契約であり、右の金三四〇、〇〇〇円の給付及びその後の掛戻金債務はいずれも右無名契約から生じた債権債務関係もしくはその履行であるにすぎないのであつて、これをもつて右契約とは別個の利息付消費貸借契約とみることができないことはもちろん、前記給付と同時に本件無尽契約が右のような利息付消費貸借契約に更改的にその内容を変更したものということもできないのである。してみると、本件契約についてはそもそも利息制限法の適用はなく、したがつてこれが同法に違反するかどうかの問題も起り得ないというべきものである。

四、なお原告は、本件代物弁済の予約は暴利行為であつて、公序良俗に反し無効である旨主張するので考えるに、本件代物弁済の予約は前記認定のとおりの内容のものであつて、場合により原告主張のように少額の残債務の弁済に代えて本件不動産の所有権を被告に移転できることがあり得る旨を約するものではあるけれども右の一事をもつて直ちに本件代物弁済の予約が原告の窮迫に乗じて締結されたものと認めることができないばかりでなく、他にかような事情を認めるに足りる証拠はないから、結局右代物弁済の予約をもつて公序良俗に反する無効のものということはできない。

五、しかして原告が昭和三〇年六月七日までの八六回分計一二〇、四〇〇円の掛戻をしたのみで以後なんらの弁済もしないことは原告の明らかに争わないところであり、かつ(証拠省略)によると、被告の代理人である訴外安東綾子が、昭和三〇年六月二三日頃原告に対し、同年七月六日までに残債務三七五、六〇五円の支払をなすべき旨ならびに右支払をなさないときはその弁済に代えて本件不動産の所有権を被告に移転する旨を口頭で通告して右予約完結の意思表示をしその意思表示は直ちに原告に到達したことが認められるとともに、右期限までに原告がこれを履行しなかつたことは原告の明らかに争わないところである。すると、被告は昭和三〇年七月六日限り本件不動産の所有権を取得したものといわねばならない。

以上の次第であつて、原告が現に本件不動産の所有権を有することを前提とする本訴請求は失当であるからこれを棄巻し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する

神戸地方裁判所第二民事部

裁判長裁判官 村上喜夫

裁判官 清水嘉明

裁判官 藤原弘道

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